この記事は筆者がAmazonのPrimeVideoで視聴した作品をユルめに紹介するシリーズ記事である。
筆者
今回は、三木聡監督作品「イン・ザ・プール」である。
松尾スズキ氏の初主演作品でもある。
筆者は三木監督ファンなのでDVDも所持しているわけだが、Prime Videoにも無料のラインナップに入っていたので久しぶりに見てみた。
そしてやはり面白い。
そんなわけで今回はその「イン・ザ・プール」を紹介していきたい。
目次
イン・ザ・プールを観た!
イン・ザ・プールってどんな映画?
継続性勃起症、強迫神経症、そしてプール依存症というちょっとおかしな心の病に侵された面々が思い悩みながらヤバ目な精神科医・伊良部に振り回されていく珍妙なコメディである。
原作として奥田英朗氏の同名小説が存在する。
描かれる病気になってしまった本人はもちろん大変なのだろうが、その様子を結構温度低めなビミョーなトーンのギャグで包むことでおかしみに溢れる映像になっており、素晴らしい原作を新たに三木監督作品として昇華させた映画に仕上がっている。
3つの話がパラレルに進む構成
構成としては、大きく3つのパートに分かれている。
まず診療パートとして、2つ。
①継続性勃起症のオダギリジョーパートと②強迫神経症の市川実和子パートの2パートにて伊良部の診療が進められる。
そして病状進行パートとして、③プール依存症の田辺誠一パートにて、症状が水面下で徐々に進行していく様子が描かれている。
患者3名については、感情移入して見るというよりは観察する、という見方になるだろう。
また②の強迫神経症パートに関してはサイレントなコメディに寄せたような、見た目の面白さを強調した演出になっているのも面白いポイントである。
市川氏のばたばたしたニュアンスは監督的にはかなりハマったそうな。
三木流伊良部像
「原作の伊良部」と「三木x松尾・伊良部」では、その本質の表出のさせ方が異なっている。
伊良部の「とらわれなさ」、あるいはある種の「自由さ」というのを二人で作り込んでいって表現したのがこの映画での伊良部である。
さじ加減の難しいデフォルメされた人物像について、その演技のラインを現場にて二人でかなり探った模様。
気になるキャスト
三木作品にお馴染みの面々が出演しているのも見逃せないポイントである。
岩松了
三木作品ではお馴染みの岩松氏である。
ここではプール依存症の大森(田辺誠一)の上司として、結構適当なことを話している。
ふせえり
こちらも三木作品ではお馴染みすぎる存在。
ここでは涼美の上司の編集長役として、これまた結構適当なことを話しているようで意外といいことを話していたりする。
真木よう子
愛人感が物凄い大森の愛人役を好演している。
後に「週刊真木よう子」と言ういろいろな監督が撮影するドラマシリーズにて、三木監督が1本撮影しているので要チェックと言える。
江口のり子
田口(オダギリジョー)が初めて診察へと赴いた泌尿器科の看護師役。
絶妙な演技にて絶妙な存在感を発揮していること。
後に時効警察で時効管理課のメンバーとして大活躍する。
嶋田久作
超怖い刑事役の嶋田氏である。
最後に伊良部が灰皿をぶっかけるシーンでの表情が最高である。
三木監督の初監督作品に当たる「ダメジン」にて極小の交番のおまわりさん役で出ている。
また初期作である「亀は意外と速く泳ぐ」にて公安役を演じている。
イン・ザ・プールの気になる美術
三木監督作品で見どころの一つである美術について、筆者的なおもしろ美術を列挙したい。
女王様が踏むおもちゃ、食べ物
冒頭の神経症の例として語られる「ものが踏みつけられることに快感を感じる例」にて本物の女王様がピンヒールにてあらゆるものを踏みつけるのである。
「地下室なのに外の風景が見える窓」っぽい絵
伊良部の診察室は地下にある設定なのだが、なんと壁に窓の絵が描かれている。
虹色のシート
診察室の注射器を置くケースに敷かれたシートがなぜか虹色である。
ピーピーケトル
田口の部屋はお洒落なのだが、監督の好きなピーピーケトルがここでも採用されている。
ちなみにピーピーケトルがなる直前、乾燥カゴに入れられた包丁を見つめる田口の思い詰めた表情のシーンにて使われるSEが時効警察でもお馴染みの音楽だったりする。
赤べこ
田口が最初に訪れた泌尿器科にて飾られている赤べこ。
緩慢に揺れる首が何やらいい感じである。
クーラーのひらひら
涼美の部屋のクーラーについたひらひら。
電気もガスも使わない生活
涼美の部屋の変わり果てた姿である。
電気もガスも使わない生活、と言うことでペットボトルの水と宅配ピザだけで生きている、と言うシーンである。
不法投棄された冷蔵庫
涼美パートのラスト、不法投棄された冷蔵庫の群れである。
まじで変なものを見ちゃった、と言う伊良部の微妙な声のトーンが素晴らしい。
ツボな小ネタ・演出5選
あいかわらずの珍妙な小ネタが端々に仕込まれている三木映画である。
ここでは筆者がツボった小ネタを紹介したい。
このイン・ザ・プールでのおもしろい小ネタを以下、列挙する。
オダギリジョーの局部を隠す黒丸
泌尿器科シーンや伊良部の診察室シーンにて使われる黒丸である。
最初期作のダメジンに始まり、ドラマ熱海の捜査官などに受け継がれていく。
ピロピロした感じがいい味だが、後にややスムーズなニュアンスも取り入れたりして試行錯誤の様子が伺えたりする。
カップ麺倒立システム
田口の夕飯の調理中のカップヌードルがひっくり返ってこぼれることなく倒立する、と言う小ネタ。
クサレバイタクサレバイタクサレバイタ
伊良部が田口の別れた元妻にヒトコト言いにいくわけだが、そこで捨て台詞的に放った「クサレバイタ」の連発が秀逸。
カブトムシ炎上
涼美が伊良部にもらったカブトムシが炎上する、と言う妄想シーンである。
定規選択
田口パートのラスト、田口が泌尿器科医の指導医に呼ばれて赴き、患部を見せるシーンである。
長さを測るべく、女性研修医的な人が大小2本の定規が立てられたペン立てから、どちらの定規を持っていくか束の間の逡巡をする、と言う微妙なギャグである。
おわりに
と言うことで、三木聡監督作品「イン・ザ・プール」を見直した!と言う話である。
三木監督映画は初期から美術に凝っており相変わらずの小ネタも豊富。
その後の三木作品を観る上でもこのイン・ザ・プールを予習的に見ておくと小ネタや美術に敏感に反応できるようになるはずである。