加えて、都内のワンマンライブには2011年からほぼ欠かさず通っている筆者が、アルバムにおけるライブ定番曲も紹介する。
※新譜に関しては後々定番曲を追記していく(かも)。
人間椅子の恐ろしくカッコ良い音楽に触れるきっかけになればと願ってやまない。
トリ
人間椅子を聴くべし「苦楽」
苦楽 収録曲一覧
2021年08月04日発売
CD / TKCA-74961 / \2900(税抜\2636)
- 杜子春
- 神々の行進
- 悪魔の処方箋
- 暗黒王
- 人間ロボット
- 宇宙海賊
- 疾れGT
- 世紀末ジンタ
- 悩みをつき抜けて歓喜に到れ
- 恍惚の蟷螂
- 至上の唇
- 肉体の亡霊
- 夜明け前
和嶋氏によるコンセプト紹介
発売前から和嶋氏によるコメントが掲載されている。
参考
苦楽TOKUMA JAPAN COMMUNICATIONS
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昭和の子供たちが漠然と未来に思い描いていたのは、バラ色の二十一世紀、みんながニコニコと快適に暮らす明るい社会でした。さて、果たしてやって来た二十一世紀はどうでしょうか。
快適にはなったかもしれません。
しかしバラ色かといえば、どうもそうとは思えません。
無邪気に個性を出すこと、突出した行動を取ることは半ば悪と見なされ、個人的には息が詰まりそうな空気を感じています。
昨年来からは、これはいちおう突発性の事象なのでしょうが、笑顔をお互いに見せあうことも叶わなくなりました。
まるでジョージ・オーウェルの予見したディストピアのようです。
この度の災害が数年後に何らかの終結を見たとして、その時にいったいどんな未来が待ち受けているのか、想像するだに戦慄を禁じ得ません。
我々は豊か、快適という名前の楽な道を選んできました。
しかし、思うのです。
苦しみがあってこその人生なのではないかと。
実りを得るためには、苦労して畑を耕さなくてはなりません。
人は生まれ、死に、その間に多くの別れを経験し、愛情を覚えます。
悲しみと苦しみから他人を許すことを知り、お互いに尊重し合えるようになります。
いってみれば、苦しみこそが幸せなのかもしれません。
昨今の息苦しさは、苦労を片隅に追いやった(あるいはそのように仕向けられた)結果のように思えてなりません。
おそらく、苦と楽は表裏一体です。
苦しみがあってこそ楽が輝き、幸せを感じるのです。
今回のアルバムでは、人生における悲しみと苦しみ、最悪の未来図、人間らしくという意味では間違った選択、などをハードなサウンドで描きたく思っています。
もちろん、いたずらに批判的にならぬよう、特定の事象をあげつらわないよう、細心の注意を払うつもりです。
現代の視点から、普遍的な事柄を歌うことが出来たなら、大いに成功といえるでしょう。
ちなみに『苦楽』とは、戦前~戦後の大衆文芸誌の名前でもあります。
江戸川乱歩の「人間椅子」は、この雑誌に発表されました。
前アルバム『新青年』の次作として面白く、またふさわしいとも思えましたので、このタイトルを提案させていただきました。
和嶋慎治
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「苦楽」紹介
前作から海外ツアーも経ての2年2ヶ月ぶりにリリースとなる22枚目のスタジオアルバム。
和嶋氏のコンセプト説明にもあるように、アルバムタイトルは昔の雑誌から取っているそうだ。
ジャケットのアートはワジマシーンチャンネルのヘッダーのイラストなどでお馴染みの鈴木旬氏による。
ディストピア的イメージから、アンドロイドのようなものを発注したところ、メカニカルな菩薩という面白いものが出てきたようだ。
その手には青森産(かどうかは定かではない)りんごが添えられている。
内容もどこかディストピアな世界観も見え隠れする。
しかし表裏一体的な人間らしさにもまた迫るのである。
曲は総じてヘヴィな仕上がりであり、筆者としてはかなり好きなアルバムとなりそうな予感。
そんなわけで以下、いつもどおりフィーリング重視で曲を紹介していきたい。
杜子春
天国をイメージしたと言うイントロから始まるリード曲。
12弦ギターかと思ったが、これはどうやら普通のギターと12源ギターの複弦の貼り方をしたギターの2本を重ねているそうだ。
MVではアコギだが実際はエレキとのこと。
そしてシンプルながらヘヴィなリフへと展開する。
題字がかっこよすぎる。
#人間椅子 様 MV
杜子春 に題字で
参加させて頂きました!!一度観たら
もう忘れられ〜ない〜! https://t.co/VNJcAFB1Mv— 中村美帆 (@mandaringoby) August 6, 2021
神々の行進
鈴木氏作曲の曲。
ヘヴィな音で重苦しくも仰々しい行進が繰り広げられる。
間奏にてフェイザーのかかったギターから銅鑼ソロとも呼べる銅鑼の使われ方がたまらない。
ライブで観たい。
ラストのギターソロまでぎっしり素晴らしい。
悪魔の処方箋
和嶋氏作曲の曲。
これまたヘヴィな入りのダウンチューニング曲となっている。
ブイブイとうなるような太いリフがたまらん。
サビの前でテンションを上げていく刻みもいい感じである。
ラストはドラムのフィルでサビを押し進める迫力ありまくりな展開で駆け抜ける。
暗黒王
鈴木氏作曲の曲。
まだまだ重い曲が続く(最高)。
ギターであろうか、どこかノイジーな音がリフに沿って聴こえてくるのが面白い。
速度を上げて鈴木氏の唸り声が轟くラストまでしっかり聴くべし。
人間ロボット
マーチングドラムのようにはじまる和嶋曲。
怪人二十面相を彷彿とさせるリフがどこかコミカルであり、曲のテーマとなるディストピア的なムードを一層不気味なものにしている。
ロボット的なかっちりとした雰囲気からはじまり、途中のアルペジオのパターンなどで柔らかな人間味を帯びていく感じに変遷していく素晴らしい表現力が楽しめる一曲。
宇宙海賊
和嶋氏の発振音で始まる鈴木曲。
古いSFのようでもあり、いきなり不穏さが立ち込める演出がたまらん。
船長(鈴木氏)と一等航海士(和嶋氏)と船員(ノブ氏)との掛け合いや掛け声も面白い。
間奏の怪しい音=テルミンでメロディを奏でている(!)のも聴き逃せないポイントである。
エフェクトの効いた椅子嗤いからの銅鑼というラストもなんというか豪華。
疾れGT
バイク好きの和嶋氏が所有するバイクをモチーフにした軽快なハードロック。
バイクっぽさが出ているリフがかっこよい。
パッと聴くと一瞬あのゴッドファーザーのメロディが去来する出だしや間奏のフレーズに遊び心を感じる。
どこかノスタルジックだが、ダサカッコイイを平然と飛び越えたカッコ良さが光りまくる一曲である。
世紀末ジンタ
ジンタといいつつも三拍子ではない不思議リズムな鈴木氏曲。
和嶋氏によるスライドギターのソロも堪能できる。
ジンタが日本の音楽形式だということで、ラストには大正琴の音も取り入れられている模様。
鈴木氏曰く、早くもレア曲とのこと。
参考
Interview-鈴木研一(人間椅子)BASS MAGAZINE
悩みをつき抜けて歓喜に到れ
かのベートーベンの言葉をタイトルに取った曲。
和嶋氏がかつてこの一文を紙に書いて部屋の壁に貼っていた言葉である。
サビではコールアンドレスポンスが起きそうな作りになっており、コロナ禍を越えた先のライブで是非声をあげたくなる一曲である。
実は35周年記念ベスト用に作られて入らなかった曲だったそうな。
鈴木さんのレコーダーに残ってて復活したそうな
参考
【インタビュー】人間椅子、鈴木研一が語る『苦楽』と尿路結石「痛めつけないとダメなんですね」BARKS
リズムが意外性に満ちておりカッコ良い。
大正琴の音が使われているのもポイント。
恍惚の蟷螂
アルバムに一曲は収録される鈴木氏作詞作曲の曲。
相変わらず視覚に訴えかける素晴らしい詞と、これまた盛り上がること必至な前のめりさが最高である。
和嶋氏とノブ氏の合いの手も最高。
刹那的な鈴木氏のボーカルもこれまたたまらんのである。
この曲だけスティールシェルのスネアを採用してるらしい。
至上の接吻
ノブ氏ボーカル曲。
モーターヘッド的なロックな曲に和嶋氏がノブ氏にしか歌えない詞を乗せている。
道程以来のフォーメーション(?)である。
ロックンロールでキャッチーなのだ。
肉体の亡霊
Bメロにてツインボーカルが展開されるゾンビ曲。
鈴木氏作曲である。
のたうつようなリフがヘヴィだが、ノリノリな重い手毬唄(?)のようなパートを経て、混沌としたギターソロが展開される複雑な展開も聴きどころ。
夜明け前
戦慄を覚える妖艶で不穏なイントロで幕明けるラストの大曲。
ここもまた複弦風のセッティングのギターを重ねている模様。
全体としてかなり作り込まれた一曲らしく、まさに最終日の夜明け前にレコーディングが終わったそうな。
複雑で難解な構成だが立ち込める熱量を感じずにはおれない。
そしてこの時代に夜明け前というタイトル。
希望を感じながら聴くばかりである。
ちなみに杜子春と夜明け前でどちらをリード曲にするか検討された曲だそうな。
聴きつつ読みたいインタビュー記事
ヘドバン vol.31
表紙!
70ページに及ぶ超ボリュームな人間椅子特集!
他では掲載していないディープな苦楽事情まで開陳される圧巻の内容!
そして和嶋氏の連載も再開!
BASS MAGAZINE【ネットで読める記事】
鈴木氏の単独インタビュー。
参考
Interview-鈴木研一(人間椅子)BASS MAGAZINE
余談だが、筆者が最後に最近気になっているアイドルグループのメンバーが人間椅子を胎教として聴いていたらしい、というエピソードが出てきて面白かった。
BARKS【ネットで読める記事】
鈴木氏の単独インタビュー。
写真も最高なので必見。
参考
【インタビュー】人間椅子、鈴木研一が語る『苦楽』と尿路結石「痛めつけないとダメなんですね」BARKS
Player【雑誌】
ロングインタビューに加え、人間椅子の歴史、苦楽アルバム・レビュー、機材紹介、昔のPlayerでの和嶋氏の連載記事の紹介(必見)、更にはいい感じのポストカードなどがついた非常に読み応えのある50ページほどの大特集が組まれている。
おわりに
ということで人間椅子の22作目のオリジナルアルバム「苦楽」を聴くべし!という話である。
ヘヴィな曲が多いアルバムはやはりたまらん…!ということを噛み締める新作であった。
執筆時点で、ツアーを待ちつつ聴きまくりたいところ。
いやはや、それにしても人間椅子、やはり最高のハードロックバンドである。