【映画】無垢の祈りを観た!【平山夢明×亀井亨】

平山夢明原作映画「無垢の祈り」感想・レビュー

満を持して無垢の祈りを観る

こんな映画

平山夢明先生の名作短編「無垢の祈り」を、亀井亨監督が自主制作にて映画化した作品である。

児童虐待・新興宗教・連続猟奇殺人といった内容を鑑みて、あえて映倫を通さず、かつ自らR18+指定としている。

劇場公開は2016年の10月。

13週にわたるロングラン上映がなされた。

あらすじ

工業地帯のとある街にて、絶望の只中をぎりぎりのところで生きる少女フミ。

学校では陰湿ないじめにあい、下校中には街の変質者にいたずらをされる。
それらに対してすでにほとんど感情を動かすことなく、ただ帰路へつく。

家へ向かうと怒声が漏れ出ている。母カオルが義父クスオに執拗に殴られていた。

カオルは自分たちの置かれている状況を「前世の行いのせいだ」と、そうフミに説き、自身が信仰する神に祈り続けるばかりでフミの拠り所とはなり得ない。

この日も殴られ終え顔に痣を作ったカオルは、散らかった部屋を力なく片付けつつ、神棚を整え、目だけで祈りを捧げる。

そんな「日常」を横目に、倒れたテレビに映るニュースをぼんやりと眺めるフミ。

フミの顔にもまた常にあざがあった。

ニュースでは、ごく近隣で起きた連続猟奇殺人が報じられていた。

暴力・虐待は絶え間なく降り注ぐ。

フミは自転車で連続殺人事件の現場を行脚し始める。

加速する絶望の最中、フミが救いを求めたのは殺人鬼であった。

感想、そして余計な話

蔑ろにされ弄ばれた少女の魂の叫びに戦慄し涙していた。

描かれる残酷さは全く容赦なく、それでいて直接的な表現は実は少ない。

それでもなお、少女の置かれた状況には目を覆いたくなる。

しかし目は離せなかった。

圧倒的な強度で描かれる絶望の中に映し出された小さな命の物語は悲しみに満ちており、
そして一抹の尊い美しさを宿していた。

さて、平山先生原作の映画「無垢の祈り」である。

原作が収録されている短編集「独白するユニバーサル横メルカトル」は学生の時分に読んでいた。

筆者はそれ依頼の平山夢明ファンである。

余談だが筆者が一番好きな平山作品は「東京ガベージコレクション」である。

トリ
トリ

ラジオじゃん!

筆者
筆者

最高の作品である

学生時代にも何度となく聞いていた。

今は毎日通勤中に録音音源を聞き続けている。

4年にわたるレギュラー放送も、その後の特番も含め、すでに何十周か聴いているだろう。

筆者の精神安定剤である。

トリ
トリ

どんな精神だよ



とにかく、「無垢の祈り」はいずれ観なければ!などと思っていたのだがそれから幾星霜、
気づけば撮影時に9歳だったという主演の福田美姫さんが18歳の誕生日を迎えていた。

そんな美姫さんがついにこの作品を観ることになった、と平山先生のツイートにて知るに至る。

亀井監督や平山先生、クスオ役のBBゴロー氏、英語字幕翻訳を担当したペコイチ先生などとともに、上映会をしたそうな。

その投稿に連ねて添えられた平山先生の言葉に触れ、これはいよいよ観なければなるまいという機運が高まったのであった。

その直後に独占配信しているDICE+にてオンラインレンタルした次第である。

演者の演技が大変素晴らしい作品である。

冒頭、主人公フミはしばらく顔も見えない時間が続く。

明らかに学校でいじめられている様には薄暗い感情を抱かずにはおれず、フミのどこか不確かな歩みは不安を増長する。

そこからひとしきり最悪な状況に置かれ、ようやくフミの顔があらわになれば、すでに絶望に慣れきっている、そんな表情なのである。

いきなり度肝を抜かれた。

ここからラストに至るまで、美姫さんの演技には驚かされるばかりであった。

そしてこれまた恐ろしい演技力を発揮していたのがBBゴロー氏である。

画面に映るだけで嫌な緊迫感がにじみ出る。

平山先生の投稿によれば『手加減をしては逆に失礼になる』との想いで、最大出力を発揮していたそうだ。

あの家の中を最悪な形で支配し狂わせていた様はただただ凄まじい。

直接の演技という訳では無いが、フミの悪しき部分を請け負ったというフミ人形での演出も素晴らしかった。

綾乃テン氏の操るフミ人形を、フミがある種俯瞰して観ているようなカットバック手法が用いられる。

虐待を受けるフミの精神が乖離しているかのような演出にも感じられつつ、まだ幼い演者である美姫さんへの配慮としても重要な役割を担っていたようである。

ちなみにフミ人形は椅子の廃材を手足として用いているという。

フミ人形だけでなく、舞台となる街を作り上げる様々な演出も目を瞠る。

川崎と思しき工業地帯の映像のバックには硬質で不穏な音が響く。

画の陰鬱な色合いや、フミを追うカメラのブレる様、挿し込まれる不穏なカット、

映像や音の端々に、なんとも厭な感じがあった。

街全体を、どこかおかしなものに演出していたように感じられた。

ともすればそれはフミのフィルターを通した世界の様だったのかと想像させられる。

そして挿入される音楽のヴァイオリンは、美しくもあまりに悲壮な響きなのである。

唯一と思しき友人「ともちゃん」と話すフミ。

冒険するかのように廃工場などを巡るフミ。

そして自転車にまたがり風を切るフミ。

これだけなら普通の女の子の日常ともとれる画だ。

それが劇中において、絶望の中の束の間の解放とも感じられた。

フミがすこしでも普通の家庭で、普通の環境で暮らせていたら、そんな悔しさともつかない想いが過る。

小さな叫びを見逃してはならない。

そしてどんな深い絶望の只中でも、誰かの存在が誰かの救いになりうるのだ。

筆者
筆者

そんなことを感じ入るばかりである

トリ
トリ

ふむ…!

おわりに

ということで「無垢の祈り」を観た!という話であった。

観るに当たっては、是非DICE+にて公開されているトークショーの映像も合わせてご覧いただきたい。

制作に当たっての監督の覚悟や想い、撮影時のエピソードなどが大変愉快に語られる。

相変わらずだが、平山先生が話すとなんとも映画とのギャップすさまじい。

そして制作陣・出演者のすばらしい勇気で成り立っているこの映画を目の当たりにし、堪能していただきたい。

そう願ってやまない。

ぜひ観ていただきたい!

またしても余談 平山先生も映画に出演されているゾ

劇中には平山先生も刑事・ムトウ役で出演されている。

筆者はその演技における「わかる?」という問いかけが大変好きである。

ぜひ堪能すべきポイントと言える。

実はこの「わかる?」は平山先生が最近よく使われるワードだったりする。

直近でいうと、Amazon Music Primeにて聴けるポッドキャストDOMMUNE RADIOPEDIAのシャイニングの回での町山智浩氏との掛け合いであったり、「俺が公園でペリカンにした話 巨大版」の購入特典となっている「平山夢明が今後5年間で上梓する小説を宣言する会」のアーカイブが挙げられる。

平山先生のトークを愛してやまない方は是非チェックしていただきたい限りである。

更に余談だが、平山先生はDOMMUNE RADIOPEDIAに2023年8月時点で3本出演されている。

エクソシスト、ゴッド・ファーザー、シャイニングの3本である(どれも最高)。

どの名作もなぞの爆笑とともに楽しく見れてしまう恐るべきコンテンツである。

アマプラ加入者であればAmazon Prime Videoで映画を映しながら、Amazon Music Primeのポッドキャストを副音声的に流すことで楽しめるので、興味のある方はチェックしていただきたい。

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