『地獄のSE』という映画を観てきた筆者である。
困惑している
まじか
川上さわ監督による長編映画である。19歳の時に手がけた作品がかのカナザワ映画祭で賞を受賞し、そのスカラシップ作品として作られたのが本作『地獄のSE』だという。
一見して「なんじゃこりゃ」という向きが非常に強いのだが、なにやらただならぬ映画なのではという気もしてしまう。
そんなわけで感想なんかを書き記しておきたい。
もはや説明しづらいのだが、あらすじも一応書いてみたい。
※以下、映画の内容に触れているのでご注意ください。
『地獄のSE』のおおまかなあらすじとか
14歳の天野モモ(♂)(綴由良)は電車の中で大声をあげるやばめなおっさんを目撃するのだが、そのおっさんは電車を降りた瞬間に普通のサラリーマンに戻っていた。つまりおっさんの宿していた狂気は電車内に残っているのだ。誰かがこの狂気を引き受けなければ、電車から狂気が染み出していしまう。しかしそれに気づいている天野は恋に忙しく、それに構う暇はなかったのである。そしてこれが町に「狂い」の雰囲気が解き放たれる瞬間だったのである。
的なことが冒頭キャプションで説明されるのだ
で、どうにも終わっている海の近くの町で、天野は早坂さん(♀)(海沼未羽)に恋をし、始業前の女子トイレのサニタリーボックスにて早坂さんを知ろうとする。保健室通いの友人・吉行六鼓(♂)(わたしのような天気)はドン引きしながら見張りを引き受けつつ、その恋には反対していた。早坂さんが月経性愛者であることを知っていたのだ。地球儀を抱えて朝の教室で踊る早坂さんを目撃した菊(♀)(るかぴ)は、朝飯のパンを分けた早坂さんにラブとしての好きを告げられる。帰り道に急に天野と吉行に話しかけてきたクラスの人気者の島倉くん(♂)(瞳水ひまり)はカラオケに行こうとしていた二人を無理やりペットショップへ連れていったりしてなんとなく仲良くなるが、ある日急に死んでしまう。
校内には菊の花が増えていく。文化祭が始まろうとしていた。
学校中のナプキンをせしめて逃げ回っていた早坂さんは、吉行に「大変なことが起こるからはやく帰れ」と告げる。
そして地獄のSEが鳴り響く。
そんな感じ…!?
『地獄のSE』のほんわか感想
鮮烈な困惑
やはり困惑した、と言うしかない。
まずもって観に行く前に覗いた公式ページに困惑した。
で、いざ観に行ったらスタンダードサイズの画面と超ローファイな画質に「なんだなんだ?」と思っていたら冒頭の長めなキャプションとその背後のどこか不吉な映像に困惑する。
女性キャストが男性役をやっていたり、セリフにことごとく字幕が入っていたり、セリフ前後にかならずホワイトノイズが乗る音質だったり、やはり困惑する。
更には「こうなるよね?」という予想(というほど明確に意識するまでもない、映画としての文脈・前提めいたもの)はだいたい無意味で、観る側で受入体制を整備済みの方向には行ってくれない展開が最後まで平然と連なっていき、結局困惑するのであった。
しかしつぎつぎに投げ込まれるその困惑からは、なにやら目が離しづらい魅力もじゅるっとはみ出ている気がした。
ミニDVや3DS(!)によって撮影されたという映像とすべてのセリフを文字に起こした字幕には、映画と現実との隔たりとしての膜の役割があり、観る人に作り物ですよという前提フィルターを強制的につける。緩急を感じさせるカットのつなぎや脈絡なさげにつらなる妙に語感の良い会話未満気味の会話からはなにやらリズムが感じられる。
高校の時分には「詩」を志したという川上監督だが、確かにどちらかというと詩のような、唐突さすらあるイメージがどんどんと眼の前に写し出されるような、そんな感覚がある映画である。
新鮮な感覚に浸れたぞ!
いいじゃない
あと、絞るとあんなに出るんだな…
ありゃりゃ
ポップな地獄感
あるインタビューによれば、監督の中の地獄の原体験は「じごくのそうべえ」だそうな。
懐かしい…!4人組が閻魔の仕打ちをことごとくやりすごしちゃって、閻魔もめんどくなって生き返らせちゃうって絵本だよな
『地獄のSE』でも、死んだ人が突然生き返る。
SEとはSound Effectのことで、映画のある地点でついにかかる劇伴こそが地獄のSEであろう。
あそこからの高揚感は素晴らしく、早坂さんが言った「すごいこと」がやはりすごくて感動した。
はんだごて…
作中、いろんな血がでるし、ゲロもでれば内臓もでる。そうやって痛みを伴って他者にふれようとした中学生たちだけがなんだか生きていたりする。そうべえ的な地獄めぐりがポップに描かれる、そんな作品でもあるのかもしれない(わからん)。
牛頭級の珍地獄めぐりなのでは…!?ちなみにチワワ(のぬいぐるみ)に度肝を抜かれたのも『牛頭』以来である
ありゃりゃ
舞台挨拶が聞けた
監督の川上さわ氏、劇作家・演出家松田正隆氏、保健室の先生役だった橋村いつか氏の3名の舞台挨拶を聴くことができた。
松田氏とお二人は大学における恩師・弟子でもあり、橋村氏は川上氏の先輩となる。
そんな仲の3名だからか終始和やかムードであった。
松田氏は映画のアンソロジー(濃過ぎるパンフレット)にも論考を寄稿している。松田氏の論考のなかの『現実はこうなっているとわかってしまう恐怖』という一文があるのだが、川上監督としてもこの映画を表現する言葉として壇上で紹介していた。
いい味だしまくっていた保健室の先生役である橋村氏のお気に入りシーンは島倉くんの「デミタスコーヒー」からのカラオケとかでのフィーバーっぷりだったとのこと。
また妙に印象的だった話としては、早坂さんの「はんだごて」という凶器チョイスの話であり、監督としては割と序列上位に来るアイテムとの認識だそうな。
刃物とかチェーンソーなんかの次くらいの位置づけだとか…!独特…!
電源は入ってないので熱は関係なくて、単純な鋭さで役割果たしてるんだよな〜…って絶対他のものの方が良い!
おわりに
ということで、『地獄のSE』を観た!という話である。
いやはや、不思議な困惑を体感できた!しかし、この困惑も是非ゆっくり噛み締めたい…
デミタスコーヒーか!
ありゃりゃ