加えて、8年ほど都内のワンマンライブにはほぼ欠かさず通っている筆者が、アルバムにおけるライブ定番曲についても紹介する。
人間椅子の恐ろしくカッコ良い音楽に触れるきっかけになればと願ってやまない。
人間椅子を聴くべし vol.1「人間失格」1stにして完成形、貫く姿勢が今も色褪せない
人間失格の収録曲
1990.07.21 Release
- 鉄格子黙示録
- 針の山
- あやかしの鼓
- りんごの泪
- 賽の河原
- 天国に結ぶ恋
- 悪魔の手毬唄
- 人間失格
- ヘヴィ・メタルの逆襲
- アルンハイムの泉
- 桜の森の満開の下
記念すべきメジャー第1作
彼らの出発点ともいえる本作は、聴くものを非日常に引きずり込む。
リフを基調とした70年代ブリティッシュハードロックを踏襲しつつ、日本人としてロックを奏でることに向き合い続ける人間椅子のメジャー第一作目にして完成形ともいえる。
それは今もまったく色褪せず、そして彼らはこのルーツを決して見失うことがない。
人間椅子の世界に足を踏み入れたなら、まず真っ先に触れるべき1枚と言えよう。
各曲について
鉄格子黙示録
オープニングSEのような位置付けの不穏なインストナンバー。
聴く者の緊張感と高揚感を嫌がおうにも高めて行き、弾けたように次曲のキラーチューン「針の山」へと繋がる。
トリ
20周年のベスト盤に収録されているフルバージョンも必聴。
針の山
Budgieの「breadfan」と言う曲のカバーである。
和嶋氏が日本的な地獄風景を詞でもって描き、鈴木氏が歌い上げる人間椅子の代表曲。
シンプルながらどうしようもなくカッコ良いメインリフは疾走感の塊である。
その演奏と鈴木氏のこぶしの効いた歌唱のマッチングが織りなす味わいは人間椅子ならでは。
今やこの曲は人間椅子にとってなくてはならない最重要曲になっている。
必聴中の必聴。
どの曲もそうだが、特に針の山の熟練のライブ演奏は是非体感していただきたい。
ライブ定番度:★★★
あやかしの鼓
トライバルなドラムに鈴木氏の囃しがなんとも生々しい呪術のような趣に満ちた怪曲。
今時CDからこんな曲がかかったら多くの人が面食らうこと請け合いである。
しかしカッコ良い。
ライブ定番度:★☆☆
りんごの泪
鈴木氏が初めてしたためたというリフがもとになって作成された1曲。
もともと鈴木氏はその曲に「デーモン」という曲名をつけていたそうである。恐ろしい曲のリフだったが、和嶋氏の手により情緒豊かで哀愁の滲む曲に。
青森出身の彼らならではの曲となっている。
非常にキャッチーで、津軽弁の語りも味わい深い。
またこの曲は初めてPVが作られた人間椅子の曲でもある。
それについて詳しくは「おどろ曼荼羅」を鑑賞されたし。
ライブ定番度:★★★
賽の河原
恐山的な世界観の重苦しい曲。
ねっとりとしたリフがあとを引くおいしさである。
Bメロのギターにかかるワウによる漂う感じが心地よく、途中の転調にはグッと来る。
ライブ定番度:★★★
天国に結ぶ恋
ラブソングの大定番といえばこれ。
自主規制すら入れたその詞を紐解けば、倒錯した遠距離恋愛の淵にしばし身を浮かべることができる。
変拍子に継ぐ変拍子。
和嶋氏が作成したというベースラインは恋の深淵へ転がり落ちるようにめまぐるしく、さらに無機質に響く間奏が聴くものの不安を炙り出すような焦燥に満ちた展開が絶品。
それらが詞とこの上なくマッチしている。
ライブ定番度:★★★
悪魔の手鞠唄
横溝正史作品を曲名に冠した一曲。
淡々と陰惨なシーンを歌い上げる鈴木氏の、こぶしの効いた歌唱が非常に味わい深い。
後半のインストパートのかっこよさはこれまた白眉。
ライブ定番度:★☆☆
人間失格
和嶋氏の詞の世界が秀逸。重苦しくひねくれた序盤から、静かにそれでいて熱く展開する中間部が非常に印象的な7分にわたる大作。
鈴木氏の所謂「椅子嗤い」とも呼ばれる奇怪な笑い声を始め、さまざまな声の表情が楽しめる1曲でもある。
ライブ定番度:★★☆
ヘヴィ・メタルの逆襲
鈴木氏作曲。メタラーの哀愁をユーモラスに表現した軽快なナンバーである。
みんな痩せてるヘヴィ・メタル。
今の(体型の)鈴木氏が唄ったらと思うと愉快な気持ちになる。
和嶋氏のコーラスもなんだかかわいい。
ライブ定番度:★☆☆
アルンハイムの泉
和嶋氏の美しいギターを堪能できるインスト。
氏のデビュー当初からの完成された技術と引き出しの多さに感動すらおぼえる。
ライブ定番度:★☆☆
桜の森の満開の下
6分を越える大作。
どんよりとした薄暗い序盤からテンポアップする展開はブラックサバスの曲のように自由でドラマティックである。
ラストの数分にわたる怒涛のインストパートは、ギターとベースの追いかけ合うような掛け合いが素晴らしい。彼らの演奏を心から楽しめる至高の一曲である。
この「人間失格」において、筆者が最も好きな曲である。
ライブ定番度:★★☆
余談 鉄格子黙示録@屈折くん
余談だが、「鉄格子黙示録」は和嶋氏の高校時代の作である。
この周辺の事情については、氏の半生を綴った自伝「屈折くん」に詳しい。それまでの作曲の方向性が突如このような作風に変わるきっかけとなった和嶋氏の奇怪な体験も興味深い。
また屈折くんの特典CDには、なんと当時の音源が収録されている(現在は入手不可)。
余談2 針の山@OZZFEST JAPAN 2013
あまりに余談だが、人間椅子再デビューとも言われているOZZFEST JAPAN 2013にて最後の曲に針の山が演奏された。その時の様子について記す。
イントロのギターが鳴り、熱狂がクラウドサーフすら巻き起こした。
その会場の最前線にいた筆者はいつものライブとは全く様相の異なるかつてない光景に感動して半ば泣きながら声援を送った。
こんなにも多くの人にいよいよそのカッコ良さが分かってもらえているのである。
そしてステージをあとにする彼らに対し、筆者のすぐ隣にいた男性が人間椅子コールを始め、遅れまいと筆者もまた声を挙げたのであった。
そのコールは広がり、すぐに会場を包んでいた。
多くの人が人間椅子を目の当たりにしたのだ。
振り返っても感動が込み上げてくる思い出である。
(ただし、地元の友人にその事をすぐに連絡したが俄には信じてもらえなかった)
おわりに 人間椅子を聴くべし
今尚ライブでは大定番となっている曲が目白押しの1st。
いかに信念を持って創作をし続けているかがわかると言うものである。
いやはや、人間失格、面白いものである…!
まず「人間失格」を聴き、そして他のアルバムも聴くべし!