人間椅子の恐ろしくカッコ良い音楽に触れるきっかけになればと願ってやまない。
トリ
人間椅子を聴くべし vol.3 「異次元からの咆哮」自由な精神を問う20枚目の快作
異次元からの咆哮 収録曲一覧
2017.10.04 Release
- 虚無の声
- 風神
- 超自然現象
- 月夜の鬼踊り
- もののけフィーバー
- 宇宙のシンフォニー
- 太陽がいっぱい
- 痴人のモノローグ
- 悪魔祈禱書
- 悪夢の添乗員
- 地獄のヘビーライダー
- 異端者の悲しみ
この作品は人間椅子の自由な精神がこれでもかと込められている。
そして聴くものに対して、自由な精神の存在を問いかけてくるのである。
ねぷた絵のジャケット
青森県弘前市出身の和嶋氏と鈴木氏であるが、その彼らの原風景とも言えるであろうねぷた絵がジャケットとして使われている。
三浦呑龍氏というねぷた絵師の作である。弘前のねぷた祭を牽引する第一人者であり鈴木氏が愛してやまないねぷた絵師でもある。
このジャケットに至る経緯としてあるインタビューにて語られている。
ジャケット制作に煮詰まった際に以前から温めていた案である「ねぷた絵」を「今作こそ使うのはどうか」と鈴木氏が提案し、そこからはトントン拍子に決まったそうである。いわば切り札とも呼べるアイディアをジャケットに投入するあたり今作への意気込みが感じられる。
アルバムの充実を確信させるリード曲「虚無の声」
イントロから不思議な世界へ誘われる、かと思えば束の間迫力あるリフが鳴り響きヘヴィな展開に突入する。
MVが先行して発表された「虚無の声」から、「異次元からの咆哮」自体が素晴らしいことを盲信してしまう筆者がいた。そしてそれはやはり間違っていなかったようである。
虚無の声は色即是空(=形あるものには実体がないということ)の中に愛おしさや美を見出すことを問う。
その感覚に到るということに想像が及ばない筆者である。MVに見られる崩れゆく虚ろな現実の只中にいるような演出に心が浮つく。さながら異次元への入り口のような曲だ。
ご覧になった方にはお分かりの通り、今作ではプロジェクションマッピングを使用している。
それが鈴木氏の白装束や和嶋氏の白いSG(MVのために購入したそうな!)、ナカジマ氏のバスドラムに映し出される。これが楽曲とよくマッチしているのだ。現実が崩壊していくかのような不思議な非現実感を味わえる非常に味わい深いMVである。
今時の技術を人間椅子が駆使するというのもなにやら意外性すらある組み合わせで面白い。
和嶋氏のサソリ型オリジナルギター「冥王~Pluto」が使用されているのもポイント。因みに蠍座の支配星は冥王星である。
前作までの縛りを取り払った自在な作風
前3作との対比・ポップでキャッチーな一面が垣間見える
実を言うとこのアルバムを初めて聴いたときに筆者は大いに混乱した。
総じて非常にキャッチーで、時にはポップですらあるのだ。
とあるライブ(※)での話だが、アンコール時の告知にてこのアルバムの制作が発表された。その際に「次回も世にも恐ろしい作品を創ります」と和嶋氏が宣言したのである。それを聴いた筆者はライブ会場の前線にて歓喜していた。
※2017年3月25日(土)のライブ盤リリース記念ワンマンツアー「威風堂々」@東京・赤坂BLITZである!
というのも本アルバムの前3作である「萬燈籠」、「無頼豊穣」、「怪談 そして死とエロス」という圧倒的にヘヴィな方向性の作品が立て続けに出た後の作品である。このようなヘヴィな方向性の作品を期待した筆者のようなファンも多かったのではなかろうかと思う(多分)。
そんな頭になってしまっていた筆者にとっては、ある種の違和感があったのだ。そして混乱したのである。
筆者は混乱のあまりアルバムを通して何度となく繰り返し聴いた。
いくつかの曲に戸惑ったものの、繰り返して聴くうちにいつしかそれらの味にのめり込んでいた次第である。
何度も聴くべき不思議な曲達
上記を踏まえ、とくに引っかかったのが以下の3曲である。結果これらは「異次元からの咆哮」を構成する重要なピースであることに気付かされた次第である。
- 超自然現象
- もののけフィーバー
- 宇宙のシンフォニー
3.超自然現象
「来る来るミラクルパワー」とは何事か!? と戸惑い、何度も聴きつつ反芻しまくった。
来る来るミラクルに到るまでは不穏な空気を纏った曲なのだが、来る来るミラクルに到り曲調とは相反して徒らにほんわかする。変拍子に満ちた曲ながらどうにもキャッチーである。おかしな話である。初めて聴いた際に筆者は動揺を隠しきれなかった。
5.もののけフィーバー
「お化けフィーバー」とは何事か!? と狼狽えた。
しかし聴くうちに気づく。グラムロックの趣があり、ホーンのように鳴っているブルースハープ(和嶋氏演奏)がいい味を出しており可愛さすらある。サビもまた妙に口ずさみたくなる。どうにもキャッチーなのである。初めて聴いた際に筆者は動揺を隠しきれなかった。
6.宇宙のシンフォニー
ゆったりと宙を揺蕩うような柔らかな非現実的趣がある。初めて聴いたときに不意にこみ上げる謎の懐かしさに、筆者は動揺を隠しきれなかった。
よくよく考えるとしばしばアルバムに収録される宇宙シリーズの一つに数えられる曲といえる。
独特の雰囲気が徐々に癖になる。
この感覚には覚えがあった。
そして「シンフォニー」のコーラスもこれまた妙に口ずさみたくなるのである。
宇宙シリーズつまみ食い
例えば7枚目のアルバム「頽廃芸術展」収録の天体嗜好症も鈴木氏作曲の宇宙シリーズの一曲。これまた癖になる名曲である。さらに言えばこのアルバムも筆者のお気に入りの1つである。
和嶋氏のテルミン
最近ライブで大活躍の和嶋氏演奏によるmoog社のテルミンの音も、この宇宙のシンフォニーのギターソロの後ろで妙な雰囲気を出している。
怒涛のキラーチューン
最後に筆者が本アルバムで最も好きな2曲を取り上げたい。
- 地獄のヘビーライダー
- 異端者の悲しみ
地獄のヘビーライダー
鈴木氏作詞の地獄シリーズ超新星である!
暴走するかのようなスピード感がたまらない。また和嶋氏の表現力の妙を存分に味わえる一曲でもある。まさにバイクのエンジンのような音を曲にあしらう。聴きごたえ満点である。
この曲はライブで異常に盛り上がる。筆者もおおはしゃぎの一曲である。
ちなみに鈴木氏が2017年の4月にビッグスクーターを購入したことを切っ掛けとして作られたそうである。重いライダー、である。
鈴木研一ビッグスクーターを買う! pic.twitter.com/D8e7gOJmfs
— バッサン (@isunohito) April 26, 2017
人間椅子の女房役とも言えるスタッフ川端氏のツイートより
地獄シリーズつまみぐい
昨今の人間椅子では鈴木氏作詞作曲の曲がアルバムに1曲程度入る。その曲の中に散見される「地獄〜」と題された通称地獄シリーズの曲となる(はず)。これらの曲の一番の特徴はとにかく鈴木氏が詞により視覚に訴えかけるような地獄世界を描いていることであろう。
おすすめの地獄曲
- 地獄の球宴
怪談-そして死とエロス-収録の地獄シリーズ。
地獄を舞う悶絶生首の絵面のインパクトがすごい(と曲を聴いて感じるのである)。
筆者はこの曲に出てくる素早く受け止める「気の合う獄卒」という存在が気になってしかたがない。
異端者の悲しみ
アルバムの最後を飾る大曲。曲長は7分に及ぶ。
文句なくカッコ良いリフと詞の世界観でこのバラエティに飛んだアルバムをぎりりと締めくくる。
この曲は異次元からの来訪者がこの世界に紛れ、そして惑う悲しみを歌っている。ともすれば自意識と現実の間で足掻く我々そのものなのかもしれない。
ふと転調する際に、眩さを感じさせるフレーズにその惑える存在が救われるかと思えば、やはり悲しみは続くのである。
筆者などは総じてそのカッコ良さに唸りっぱなしである。
併せてヘドバンvol.15を読むべし
筆者が愛読しているヘドバンについて触れたい。このムックは圧倒的熱量で作られるメタル特化型紙メディアである。人間椅子への愛にも溢れる書物であり、vol.15では「異次元からの咆哮」のクロスレビューから各メンバーへの膨大な文字数でのインタビューなど非常に熱い内容になっている。鈴木氏とともにねぷたを見ながらのインタビューなど、他ではそう見れるものではなかろう!
「異次元からの咆哮」の制作背景などにも触れられているため、ぜひ併せて読みたい本となっている。
そしてさらに補足すればこのヘドバンには和嶋氏が連載を持っている。
氏の野営への想いを綴った連載であり、含蓄があり時にユーモラスでもある和嶋氏の文章そのものが大変楽しめる好連載である。さらには氏のこだわりなんかも垣間見え、和嶋氏のファンにはそれはもうたまらない連載と言える。
まとめ 異次元からの咆哮を聴くべし
殻を破り前へと進み続ける人間椅子の自由な精神を存分に楽しめる最新作(執筆現在)である。
このアルバムの自在な作風には確かに創り手である人間椅子の自由な精神が込められていた。
いやはやそれにしても異次元からの咆哮、面白いものである。
記念すべき人間椅子の20枚目のスタジオアルバムを是非聴くべし!