2018年7月、三木聡監督の最新作・映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が2018/10/12に公開されることが発表された。
トリ
⚡️『#音タコ』予告編公開⚡️
シン&ふうかの歌声、初 解 禁 ‼️🎤#阿部サダヲ as シン
「人類滅亡の歓び」(作曲:#HYDE、作詞:#いしわたり淳治)
🎤#吉岡里帆 as ふうか
「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:#あいみょん)シンの最後の歌声をめぐる “声の争奪戦” が今、はじまる! pic.twitter.com/QqCRuFLbvv
— 映画『音量を上げろタコ!』公式 (@onryoagero) 2018年7月23日
三木聡監督と言えば、そのあまりに独特な一見ゆるい世界観と、全てを飲み込まんとする小ネタにつぐ小ネタ、そして作り込まれたこだわりの美術、鮮烈な色使いでもって観るものを混迷の淵に追いやる珍妙な映画を作り続けている。その世界には言い知れぬ魅力がある。
三木作品の魅力に翻弄され続ける筆者の現実逃避人生においても、当然かなりの重要なポジションを占める映画監督である。
と言うことで新作の発表には筆者大歓喜な訳である。
本記事では三木聡監督の映画作品を一挙紹介したい。
音タコが気になっている方、音タコを見た後に三木作品が気になってしまった方の一助になればと願ってやまない。
三木聡作品一挙紹介・映画編
- どんな話?
- 注目の小ネタ
という構成で、映画作品を簡単に紹介する。
三木監督の真髄がそこにあるのである。
ダメジン(2006年)
三木監督が最初に制作したのが本作ダメジンである(色々あって公開は3番目)。初期衝動とも呼べる混迷の極みに何やら病みつきになる変な映画である。ストーリーを差し置いてギャグ有りきのこのスタンスには度肝を抜かれたものである。筆者はこの作品が好きでならない。
どんな話?
端的に言えば「永遠に夏休み」、そして「一切の成長なし」!
そのタイトルの通りありえないくらいダメな3人組み(佐藤隆太、温水洋一、緋田康人)の話である。
「ニート」や「フリーター」と言う言葉が世に出る前の話なのだが、確かにその類のダメさではない。なんとなくその日暮らしが成り立つすごい人種とも言える。
ダメすぎるので、「100万円あればインドで一生遊んで暮らせる」と言う話を真に受けてインドに行こうとする。しかしダメすぎてろくに話が進まないのである。
注目の小ネタ
- 脈絡なくかまいたちにやられ頭頂部がかちわれて大量出血する猫じじい(笹野高史)
- 無煙仏
イン・ザ・プール(2005年)
初上映作品がこちら。奥田英朗の名作「イン・ザ・プール」を原作とした作品。精神科医伊良部は本作では太っておらず、怪優松尾スズキ氏が演じる。
どんな話?
とんでもない精神科医伊良部(松尾スズキ)が、患者達の一風変わった精神疾患を治療していく。勃ちっぱなしの営業マン(オダギリジョー)や、強迫神経症の編集者(市川実和子)が伊良部に振り回されつつ、何故か快復していく様はよくわからないが清々しい!
そして並行してストーリーが展開するエリート管理職(田辺誠一)のプール依存症が進行してゆき心のバランスが崩れて行く様もまた見ものである。
注目の小ネタ
- 診療に訪れたオダギリジョーの股間近辺の黒丸があまりスムーズに移動しない感じ
- 「逆流が好き」
亀は意外と速く泳ぐ(2005年)
どんな話?
コケた拍子に「スパイ募集」の極小ポスターを見つけたことをきっかけにスパイとなった平凡すぎる主婦(上野樹里)の話。そのミッションは「平凡に暮らすこと」。あまり変わりばえのしないはずの日常がスパイになったと言う事実だけで激変する不思議。
実は街にスパイが溢れており、怪しすぎるジャージのスパイ夫婦(岩松了、ふせえりの三木作品的ゴールデンコンビ!)、豆腐屋兼傭兵(村松利史)、そこそこ味のラーメンを作り続けるラーメン屋(松重豊)など、変な方向に尖りすぎている。
注目の小ネタ
- 「バネやってます?」
- 要潤の自分スロー
図鑑に載ってない虫
どんな話?
雑誌編集者の「俺」(伊勢谷友介)は「一度死んで生き返れ!」というを命令され、「死にモドキ」なる臨死体験出来る何かの調査を始める。
相棒のオルゴール職人・エンドー(松尾スズキ)を引き連れ取材をするうちに、何故かSM嬢サヨコ(菊地凛子)、ヤクザの目玉のおっちゃん(岩松了)とその舎弟のチンピラ・チョロリ(ふせえり)とともに死にモドキの正体に迫ることに。
注目の小ネタ
- ゼリー藤尾
- 無煙仏
転々
藤田宜永の小説「転々」を原作とした、オダギリジョーと三木監督の「時効警察」コンビによるロードムービー。
どんな話?
大学8年目にして100万弱の借金を追っているフミヤ(オダギリジョー)が突如現れた借金取り・福原(三浦友和)と何故か東京を一緒に歩くことになる。そうすれば「借金チャラ」とのことで、訳も分からず散歩をする話である。さらに何故か福原の知り合いの麻紀子(小泉今日子)とふふみ(吉高由里子)との疑似家族が始まる。
注目の小ネタ
- 岸部一徳役の岸部一徳
- 置き猫
インスタント沼
これまた時効警察で大活躍した麻生久美子と三木監督のタッグ。沼を移動させる、という着想から生まれた変な話。
どんな話?
人生がうまくいかないジリ貧OLの沈丁花ハナメ(麻生久美子)は会社を辞め、同時期に母親がカッパを探して池に落ちて昏睡になりにわかにどん詰まる。
色々あって行方不明の父親を探しに出るが、限りなく父親っぽい骨董屋の主人・電球(風間杜夫)は結構な変人であった。その電球の妙な格言と生き方に何故か励まされてハナメはジリ貧の人生を脱する兆しを見る。
注目の小ネタ
- 池から引き上げたポストに入ってた手紙を乾かしてたらゲルニカ
俺俺
星野智幸の小説を原作とした映画である。終始不穏な雰囲気が漂う。
どんな話?
成り行きで俺俺詐欺をしてしまった家電量販店店員の均(亀梨和也)の周りに第2第3の「俺」が現れる。次第に意気投合した「俺」達は心地よい共同生活を始めるが、その後もさらに「俺」が増え続けてしまい、最後には俺同士の「削除」が始まる。
注目の小ネタ
- ボウリング場にあるスイカは予算がないため監督の自費
- 得体の知れないドロドロ
以上が音タコ以前の三木聡作品の簡単な紹介になる。
まぁそうなのだが、これが観てみるとどうにも面白い!
三木聡作品の魅力
ここで魅惑の三木聡作品がどのように作られているか、少し触れてみたい。
不可思議な構成と小ネタの関係
三木聡作品は変わった物語構成の映画が多い。
三木監督は「ゼロからの脚本術」という書籍にて「ハリウッド式とはソリが合わないというか、俺のとはずいぶん違うやり方なんだな」と気づいたということを語っている。三木作品はやや特殊な手法で作り上げられているのだ。
そのベースにあるものはコントだという。
もともとテレビのバラエティなどでコントの脚本を書いたり、シティボーイズの舞台の構成・演出を担当していた三木監督である。その手法が活きているそうだ。
日々、面白いと感じたことや思いついたネタをストックしていき、いざ脚本を作る段になるとおもちゃ箱をぶちまけるようにそのストックをばらまく。それをどう選んでどう整えるかということになる。
一見不要とも思える小ネタ1つは、ぶちまけられたおもちゃの1つであり、それは三木作品の不思議な構成の物語を形作る重要なパーツと言える。
確かに、恐らくただやりたくてやっている小ネタも多いはずである。むしろかなり多いはず!
無意識からテーマを見つける
さらに三木監督は、そこから無意識の中にあるテーマのようなものを掴む作業を行う。
どうもうまく話がつながらない時などに、脚本をいじくりまわす中で不意にうまく話が流れることがあるという。そう言った作業の積み重ねの中で話の主題のようなものに気づくのである。
例えばイン・ザ・プールは「患者3人が治る」わけではなく「2人が治り1人は悪くなっていく」という構図である。これは脚本を詰める中で、「精神病とはいえ、人に害さえ与えなければ病とそれなりの距離感でやっていけるのでは?」という思いを原作を読んでなんとなく感じていたことに自分で気づいたことでそうなったのだ。このことに気づいてからうまく脚本がまとまったそうである。
カオスなストーリーになんだか説得力があるような気がするのもそういうことか! と筆者は納得していたりする。
まとめ
ということで筆者がDVDやBlu-rayを所持している三木聡監督の映像作品について紹介させていただいた。
あの小ネタの応酬が病みつきになってしまった方は是非遡って三木作品を紐解いていただきたい。初期ほど小ネタ密度が高いということはここに記しておく。
余談だが筆者ははっきり言って三木聡監督の作品が相当好きなのである。それこそ各作品のオーディオコメンタリーを音声だけ録音して倍速で何十周も聴いていたくらい好きである。
そして時効警察をはじめとする三木聡監督ドラマ作品も非常におすすめなのでいつか記事にしたい。
いやはや、それにしても三木聡作品、面白いものである。