筒井康隆原作の長編小説の映画『敵』(監督:吉田大八氏)を鑑賞した。
第37回東京国際映画祭3冠を達成したまさかのモノクロ映画である。老人の生活が淡々と描かれているんだけど、これがまたかなり好きなえいがであったのだ…!

主演は長塚京三さん。すごい合ってる役!
そんなわけで感想なんかを書き記しておきたい。
※以下、映画の内容に触れているのでご注意ください。
『敵』のおおまかなあらすじ
渡辺儀助(長塚京三)、77歳。10年前に辞した元大学教授である。
妻信子(黒沢あすか)とは20年前に死別、今は都内山の手の自宅にて年金とたまの講演依頼や記事の執筆で慎ましく暮らす。
老醜を潔しとせず、貯蓄から余生を逆算し来たるべきその日=Xデーに向けて淡々とハリのある生活を送り続ける。
食事を重視し、朝は白米、昼は麺類、夜はローテーションで好みのものを調理したり晩酌もする。
実は辛いものが好きで、たまにお腹を壊す。
教え子の鷹司靖子(瀧内公美)が来訪するのが楽しみである。
行きつけのバー『夜間飛行』に行くことがあるが、マスターの姪・菅井歩美(河合優実)と会うためでもある。
教え子や友人との限られた交友関係を楽しみつつ、異性の前で格好をつけてみたり密やかな欲望を抱きつつ、自制とともに亡き妻のことも想う。
長い事書いている遺言書も仕上がった。思い残すことはない。
そしてある日パソコンにて謎の『敵』のことを知る。それ以来、儀助の夢に信子がよく現れる。
次第に、儀助の生活が静かに歪んでいく。
『敵』のほんわか感想
ビジュアルに惹かれて観に行った『敵』であったが、これが素晴らしい作品であった。
儀助の生活に憧れる
老人の淡々としたハリのある生活は魅力に満ちており、未だ30代の筆者から見ても憧れすら抱いてしまった。前半の儀助の生活パートですでに惹き込まれたのだ。

なんでか老人儀助が可愛くすら見えてくるんだよな〜
モノクロながら、フードスタイリスト飯島奈美氏による料理カットがまたすばらしく美味しそうである。
そんなシーンを積み重ねた後、後半にいくにつれゆめうつつなシーンが重ねられ、儀助が今どこにいるのかも不安になるばかりとなっていく。しかしその不穏さの裏にほのかに安らぎが顔をのぞかせているようでもある。儀助の覚悟に伴う哀愁と美しさに未曾有の感動が去来した次第である。
モノクロ映えする日本家屋と登場人物
今どき企画を通すのも難しそうなモノクロ映画である。
しかしながらロケ地となった日本家屋はモノクロしかあるまいというハマり具合であった。

モノクロにすると決めてから、監督は日本家屋が出てくるかつてのモノクロ日本映画を漁ったらしいね
また儀助と取り巻く3人の女性のモノクロ映えするのも大変目を見張るポイント。

全員好き
美しい音楽も要チェック
沁みる低音が美しい劇伴も魅力のひとつとなっている。Spotify等でも聴ける。
また音楽も嗜む吉田監督(ベーシストとのこと)の音楽へのこだわりがうかがえるこちらの対談記事もおすすめである。
お相手は劇伴を担当された千葉広樹氏である。
原作もこれまたおもしろい
映画が素晴らしかったため、筒井康隆氏原作の長編小説『敵』も早速読んでみた筆者である。
読んで気づくのは素晴らしい映像化だったということ。
前半の読み味は映画で味わえる儀助の生活へのこだわりがそのまま感じられるようであり、夢か妄想かはたまた現実なのかわからない不穏な後半もこれまた素晴らしく表現されていた。
ラストに付け足された映画オリジナルの演出も個人的に好きな描写であった。
おわりに
ということで、『敵』を観た!という話である。
老人文学の最高峰と称される原作をモノクロ世界で再構築した傑作映画である。

いや~良かった!

吉田監督は2012年の「桐島、部活やめるってよ」とかも良かったけど今回もまたいいな
他の吉田監督作品も観てみたくなっているのであった。