ひと月ほど前になるが、『ベイビーわるきゅーれナイスデイズ』なる映画を突如観た(監督・脚本は阪元裕吾氏、アクション監督は園村健介氏)。
女の子二人組のゆるめな生活と超絶アクションが同居する映画である。
気になって、ちょうどよい時間に近所でやっていたので観てきたのだ
人気シリーズの3作目らしいな
で、まんまと面白くて、後日併せて公開されていた本作の関係者や撮影現場を追ったドキュメンタリー映画『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ』(監督:高橋明大)のほうも観に行ってしまったし、監督の関連作と過去作を観てしまった。なんともつい浸っていたくなる世界観なのである。
ということで感想なんかを書き記しておきたい。
※以下、映画の内容に触れているのでご注意ください。
『ベイビーわるきゅーれナイスデイズ』のあらすじ
協会所属の杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)は宮崎出張に来ていた。
なんの協会?
殺し屋である
はい!?
そういう世界観なのである。
で、前日の仕事も無事終わって観光気分を隠しきれずに次の仕事前に海で遊び、この日がまひろの誕生日だと不意に思い出したちさとはなんも準備してないことにより圧倒的な顔芸でもって動揺し、取り敢えず予約してある焼き肉を楽しみにしつつ次の仕事へと向かう。
ターゲット松浦(かいばしら)は観光客くらいしかいない休日の県庁にいるとのことで、すぐに人気のない県庁にて松浦を発見するも、なぜか別の男に今まさに射殺されようとしていた。
男は冬村かえで(池松壮亮)、フリーの、凄腕の、意識の高い、かつ生きるのにやや不器用な殺し屋であった。150人目の殺害達成を邪魔されたかえでは激昂し2人に襲いかかってくる。
二手にわかれ、ちさとが松浦を追う。かえでを食い止めるまひろは銃をめぐる攻防を経て広い部屋でタイマンにもつれこむ。やや押されるまひろはしかけどころにてここ一番の頭突きを繰り出すも、見事なカウンターをくらいノックアウト。とどめを刺されなかったものの、まひろは初めての敗北を喫する。
協会もあれば、フリーの殺し屋も存在するのね。
協会に非所属の殺し屋とターゲットがバッティングすると、協会的にはメンツとかいろいろあって、まずフリーの人を粛清しなければならないそうな。
ってなわけで現地の協会員2名が合流する。なにやら最近の若者に厳しい入鹿(前田敦子)と穏やかな筋肉・七瀬(大谷主水)を加えて4人で動くことに。それでまずかえでを粛清、その後にターゲットを始末する運びになり、結果的にまず隠れている松浦を護衛しつつ、史上最強の敵・冬村かえでに立ち向かうことになる。
まひろは、強敵の登場にかつてなくやる気を見せるのであった。
そんな感じ!
『ベイビーわるきゅーれナイスデイズ』の感想
ちさまひの尊さたるや…!
超絶アクションと緩急ありまくりなドラマ、そしてそれらを包括する世界観にハマってしまう魅力に満ちた作品なのである。
怒涛のアクション
中核をなす面白さの源に、まずもって圧巻のアクションがある。
素人目線ではあるのだが、合理的に突き詰められたようなアクションがものすごい密度で繰り広げられるのだ。銃やナイフを巡る心理戦要素をともなったビーチフラッグ的な応酬、致命打を避けるための足回りへのまとわりつくようなもつれあい、細かなフェイント、男女の体格差を埋める戦略と数多の工夫が凝らされている。
現役のスタントパフォーマーである伊澤彩織氏は今作も圧倒的なのだが、相方である髙石氏も前作から更にアクションの量とレベルが跳ね上がった印象である。
そしてやはりラストバトルの迫力たるや…!動きという部分だけではない、まひろとかえでの魂のぶつかりあいがそこにはあり、共鳴すらし始める二人の削りあいには冷涼な死の淵にて溢れるほどの熱い生を感じさせるのである。
あの最後のまひろの笑顔たるや…見ごたえしかない…!
池松壮亮の存在感
今作はなんといっても最強の敵・冬村かえでを演じる池松壮亮氏の存在が大きかった。まずもって裸にロングコートという出で立ちでかつ血まみれで現れ、鍛え抜かれた肉体もあいまった凄みに度肝を抜かれる。動けば速く、繊細で、殺気が立ち込める。
もはや狂気にも近い想いでストイックに自分を高め続けるかえでだが、買った弁当の箸がもらえないほどの生きるうえでの不器用さも持ち合わせているという側面もキャラクターに深みを与えていた。
ちなみにあの弁当のくだりは池松氏のアイデアだったそうな
かえでに関して、ドキュメンタリーの中でも特に印象的だったのは、池松氏が「かえではちさとと出会わなかったまひろ」との説明を監督から聞いたという部分である。確かに過去作から生活において不器用な面が浮き彫りになっていたまひろだが、ちさとが常にそばにいた。初めての圧倒的な敗北を喫したまひろは、そばにいてくれるちさとによって再起し、二人でかえでに立ち向かうことができたわけである。
そんなかえでとまひろの死闘の中での共鳴には一層の切なさが伴うのであった。
軽めに人が死ぬこのシリーズにおいて、情のハンカチを取りに行かなかったかえでの生き様と、生き抜いたふたりの「生きててよかった」が描かれるのだから全く油断ならない作品である。
過去作とのつながりも
過去作とのつながりが観られるのもシリーズの魅力であろう。
たしかにたかし…!
田坂さん(水石亜飛夢)や宮内さん(中井友望)、須佐野さん(飛永翼)などのおなじみの面々が出てくる嬉しみはもちろん、それこそアクション面でのまひろの決め技となっていた頭突きもそのひとつだが、それ以外にも細かなところで過去作からのつながりがあるのもシリーズ通してのファンには嬉しいに違いない。
まぁ筆者は3→2→1の順で観たわけだが…
入鹿への「合格〜」は『1』でのちさとからまひろへのものを今度は二人でやる形になっている(かえでとの対比で二人と出会い救われた入鹿が描かれるのも良かったりする)。
あっちゃんのオツボネ感面白すぎ
かえでとの本当のラストバトルに臨むにあたりまひろが交わした会話の中にでてくる「名も知らない兄弟」は『2ベイビー』の相手・神村兄弟(丞威、濱田龍臣)であるし、また『1』でカチコミのためにおあずけとしたショートケーキと今作の最後のシーンのショートケーキの連なりも妙に感慨深い。
更に言えば今作のパンフレットおまけのドラマCDには、『2ベイビー』に鮮烈な存在感で登場した商店街の松本さん(渡辺哲)に遭遇したエピソードがちょびっと語られていたりもして面白すぎる。
たしかにたかし…!
ちなみに「たしかにたかし」は、『2ベイビー』における伊澤氏のアドリブだった経緯がある(とDVDのコメンタリーにて語られている)
ほー…ってかDVD買ったのかよ!
『2ベイビー』はアマプラで視聴できたのだが『1』は有料だったので、結果として1&2のDVDセットを買ってしまった筆者であった。監督・髙石・伊澤の3名のコメンタリーが聴ける。
どうせならBlu-rayでほしかったのだが、どこにも在庫がなかったためDVDにしてしまった…絶対今需要高まってると思うんだが…むしろだからないの…??
ドキュメンタリーもよい
制作陣や俳優陣へのインタビューや撮影の様子を記録したドキュメンタリーである。
心身を追い込みつつ作り上げられてゆくアクションシーンの裏側や、監督はじめ各スタッフが思わぬ状況に決断を迫られる様など、映画作りの臨場感を感じられる作品である。
時間的な成約だったり、俳優陣の体調不良やケガなんかもちょいちょいあったみたい
序盤語られる、プロデューサーである鈴木祐介氏が阪元監督の過去作である『ある用務員』の髙石・伊澤コンビのシーンの編集している様子をたまたま目にしたことが『ベビわる』シリーズの始まりだったという。
ある用務員、役名とかキャラ造形が違ったりするけど確かに目を引く二人組なんだよな〜主人公にやられちゃうわけだけど、まひろ(じゃない)の敗北シーンはなかなかショッキングだった…
そんなわけでドキュメンタリーも合わせてチェックしておきたいところ。
執筆時点(2024/11/4)では池袋のシネマ・ロサなど一部映画館でまだ上映しているので関東圏の方は要チェックと言える。
おわりに
ということで『ベイビーわるきゅーれナイスデイズ』を観た!という話であった。
凄まじいアクションとゆるい生活をおくる二人の活躍を堪能できる素晴らしい映画である。
願わくは、尊きふたりのモラトリアムな日々が終わらないことを…!
絶賛ドラマもやってるし今後も二人の活躍が観れるといいよな〜
おまけ ポスターやチラシやパンフレット
一度近所で観ていた筆者だったが、11月にキネマ旬報シアターでの阪元監督の舞台挨拶があり行ってみようと目論んでいた。しかしその回のチケットが瞬殺であり、予約開始日の早朝にチェックしたらすでに手遅れだった。
で、それとは別の映画を観に行ったときにベビわる過去作のポスターなどを見かけたのでその写真を紹介する。