『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を観てきた筆者である。
話題のやつ!
おもしろかった…!近所でレイトショーで観て、後日IMAXの劇場でもう一回観てきてしまった
噂には聞いていたが音がすごかったし、さらに言えば音楽の使い方もなにやら面白みがあり、IMAXで観てみようと2回目に行った次第である。
有り得そうな一つの未来を体感させてくる、リアルな恐ろしさのある戦争映画であった。
予告編ではよくわからないのだが、ジャーナリストチームがワシントンD.C.を目指して戦渦のアメリカを1400kmほど移動するロードムービーである。
製作はA24、監督はアレックス・ガーランド氏となっている。
そんなわけで感想なんかを書き記しておきたい。
※以下、映画の内容に触れているのでご注意ください。
『シビル・ウォー』のおおまかなあらすじ
ニューヨークにて、戦場カメラマンのリー・スミス(キルステン・ダンスト)はライターのジョエル(ワグネル・モウラ)とともにワシントンD.C.での大統領(ニック・オファーマン)への単独インタビューを計画していた。
リーの中にはかつて撮影してきた各国の惨状がフラッシュバックし、いままさにその惨状が自らの母国で起き続けていることに報道の力を信じることができなくなりつつあった。
このとき19の州が連邦から離脱したアメリカでは、カリフォルニアとテキサスの西部連合(WF:Western Forces)と政府軍で武力衝突が各地で起こり、WFはワシントンD.C.まで200kmの地点に侵攻し、戦局はまさに終わりに近づいていたのである。
この戦争自体のことは詳細に語られないんだけど、この大統領はなにやら憲法を変えて任期3期目に突入してたり、FBIを解体しちゃったり、自国民への爆撃なんかをしちゃったっぽい、ってことがほのめかされるゾ。で、14ヶ月インタビューに答えていない状況なのだ
リーとジョエルは、リーの恩師で大先輩のジャーナリスト・サミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)とリーに憧れる駆け出しカメラマン、ジェシー・カレン(ケイリー・スピーニー)を加えた4人で、寸断された道路を迂回してワシントンD.C.へと向かうのであった。
一般人に吊るされて拷問を受ける一般人、私服っぽい格好の民兵グループの市街戦、一見平和なままの内戦には我感せずな町、クリスマス感のある珍妙な廃墟での膠着した狙撃戦などに遭遇しつつ一行はD.C.へと近づいていく。
どこ行っても、どっちがどの軍なのかはっきりとはわからないんだよな〜
はじめはあまりの状況に何もできず取り乱すジェシーであったが、リーの冷静な記録に徹する姿勢を観つつ、次第に撮影の腕もリーに認められていく。
道中、記者仲間と再会し喜んだのもつかの間、(おそらく有色人種と思われる)民間人の遺体をマスグレイブなうな赤サングラスのヤバい兵士(ジェシー・プレモンス)に目をつけられ絶体絶命の状況に陥る。サミーの機転でもってどうにかその場を脱するのだが、大きな代償が伴ってしまう。
WFの軍事基地のあるシャーロッツビルにたどり着くも、そこで政府軍が降伏したことを知った一行はWFの進軍を追い、僅かな残党の残るD.C.へとついに足を踏み入れるのであった。
『シビル・ウォー』のほんわか感想
ものすごく面白い映画であった。描かれる、すぐそこにあるかもしれない未来は没入感もりもりでとことん恐ろしいゾ…!
ジャーナリストの役割に光を当てる
あまり前情報なしに観に行ったこともあり、そんなごく近い未来のアメリカの景色と惨状をジャーナリストチームの目線で観ていくことになる、という構成には少々面食らった。
主人公であるリー・スミスとそのリーに憧れるジェシー・カレンの変化とともに物語は動いていくわけだが、この二人の登場人物の名前は、ガーランド監督が尊敬するという2人の戦場カメラマン、リー・ミラーとドン・マッカランにちなんでいるのだという。
「リー・ミラー」は劇中でカレンも名前挙げてたよね。キルステン・ダンスト演じる方のリーに対して「同じ名前だ」って話してた人。
そんな想いからも垣間見えるが、ガーランド監督がジャーナリストの役割に光を当てるべくこのようにカメラマンが主人公の物語になったわけである。そして観てみて、ジャーナリズムに力が戻ることを願わずにはいられなかった次第である。
リーは自らが写真を通して自国へ警告し続けてきたことも虚しく惨劇がいままさに自国で繰り広げられ、すでにジャーナリズムへの信頼を失いつつあった。そんな気持ちが崩れつつあるリーの様は、カメラマンにちなんでか、レンズが色収差を起こしたようにカットがぼやけていくのである。
かつてどこかの国で撮影した陰惨なシーンがフラッシュバックするとき、狙撃戦の只中で地面に突っ伏し眼前の花をぼんやり眺めるとき、一見平和な町の服屋さんで試着をするとき、じんわりとリーの周りに虹色が滲む。
そしてD.C.に入った直後に心の収差が臨界点に達したかのように一切写真が取れなくなってしまう。
シャーロッツビルでサミーの最期の写真を消去したときにはもうそういう状態になってたのかな〜。旅の序盤にジェシーからの「私が死んだらそれを撮る?」的な問いの答えは、このとき上書きされたんだよな。リーの変化の描かれ方すばらしいんだよな〜こういう形で人物の内面の変化がじっくり描かれる映画だったとは…!(予告編じゃわからん)。
それにしても赤サン以降は急ピッチでクライマックスに行ってしまったため、ちょいともったいなかったようにも感じたりした。
一方ジェシーは、人生で最も恐ろしい体験をしたこの数日間に、同時に圧倒的な生の躍動も感じちゃうんだよね
そんなわけでD.C.に至って、常に戦場ではジョエルが付き添って守っていたジェシーは果敢に銃撃戦の撮影を試み、ともすれば戦場にてジョエルとともに興奮気味に笑い合ってすらいる。逆に一時動くことすらままならなくなっていたリーはジョエルに守られる、といった形で状況が入れ替わる。
大統領の専用車が脱出に失敗する様を眺めつつ、気力を取り戻したリーは、大統領がまだホワイトハウス内に潜んでいるとカンを働かせるわけだが、結果的にそのカメラマンとしてのひとつの姿勢がジェシーへの最後の教えとなってしまう。
斃れゆくリーを記録したジェシーは何を想ったのだろうか。
ラストからエンドロールにかけて流れるSuicideの「Dream baby Dream」の希望とも絶望ともつかない奇妙で絶妙なトーンもまた、安易にその答えを提示することはなく、ひとつの歴史を記録したジェシーの成長に伴うもろもろをそのままの形で観客へと受け渡すようであった。
監督のメッセージはすごい明確だと思うんだけど、観た人に委ねる部分が大いにある作りだったな〜願わくばジェシーには、受け継がれた意志とともにその後の世界を生きてほしい…
また劇中、リーとジェシーが撮影した写真(スチルカメラマンのマレー・クロースが撮影している)が挿入されるが、そのどれも印象的でひとつの見所にも思える。
いい写真なんだよな〜
エンドロールのジェシーが撮ったあの写真、その後の世界をどう動かしていくんだろうか
音と音楽も良い
とにかく音がすごい映画でもあった。
銃撃などはできる限りでかい音・強烈な閃光のでる空砲で撮影していたらしく、伴う衝撃などから役者もリアルな反応が引き出されていたようである。
まじで音で驚かされるシーンが数回ある(そういう意味でも心して観るべし)
また音楽はBGMも挿入曲も大変良かった。
Spotifyにオフィシャルプレイリストがあったので紹介しておきたい。
挿入される6つの曲は全部アメリカのアーティストのものになっているゾ
どれもいい味が出まくっていた。時代遅れにならないよう、あえて古めの曲を多用してるそうな(半分は筆者が生まれる前の曲だった)。
De La Soulの「Say No Go」の挿入タイミングにはなかなか面食らった。
かなりシリアスな状況を観つつヒリついていた筆者だったが、この曲が流れることでタガが外れたように気持ちが開放される妙な感覚に陥った次第である。
おわりに
ということで、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を観た!という話である。
かなり面白かったし、しかしアメリカの話とは言え決して他人事ではない状況には空恐ろしい気持ちも去来する作品であった。それが絶妙な音楽とともになにやら深く記憶に残っている。
上の感想に書いた以外にも見どころ多い映画である。
特に予告から存在感ありまくりだったジェシー・プレモンスの赤サングラスはただただ恐怖であった。
あのなんとも締まりの無いお腹を見るに、多分ちゃんとした兵士じゃなくて、ふつうのおっさん(人種差別主義者)が戦争に乗じて銃を持っちゃった、って状況なんだろうか?軍服ではあったけどね。にしたって、銃一つで、あまりにおかしいことがまかり通る状況になるんだもんな…怖すぎる
ちなみにこの役は色々あってダンストの配偶者ということで彼がカメオ出演にいたったそうな。
また何気なく映し出される風景もつい見入る素晴らしさがあったと思う。
冒頭の車の残骸とか、すれ違う車や往来とか、避難キャンプの感じとか、スプリンクラーなんかも良かったな
そんな感じで見応えありまくりで個人的にはかなり好きな映画である。
是非観てみていただきた。
おまけ パンフレットやチラシ
2回目に観た劇場。