先月渋谷で映画を観たときに、大層混み合っている作品が見受けられた。
その映画が『マミー』である。
かの和歌山毒物カレー事件の冤罪の可能性を問うドキュメンタリーである…!
この度、近所の映画館でも上映開始したため観に行った筆者である。
驚きと困惑と疑問、多くの感情が渦巻き、渾然一体となってとにもかくにも圧倒的に面白いドキュメンタリー映画である。
監督は二村真弘氏!
※以下、映画の内容に触れているのでご注意ください。
『マミー』のおおまかなあらすじ
監督の二村氏は死刑囚となっている林眞須美氏の夫・林健治氏、長男・浩次(仮)氏、取材を継続してきたジャーナリスト、ヒ素を鑑定をした教授、その鑑定に異を唱える教授、地元の住民などへ直接あたり、事件を検証していく。
ある弁護士によれば、眞須美氏が毒物を入れた直接的な証拠は存在しないのだという。
有罪の決め手となった要素は3つあった。
- 目撃証言があった。
- 林家にあったヒ素と事件に使用されたヒ素が同じものだった。
- 眞須美氏が健治氏にヒ素を盛り、保険金詐欺事件が繰り返されていたとされた。
まず目撃証言はいろいろとおかしいのだが、なにより眞須美氏(と思われる人物)が蓋を開けた鍋にはヒ素は入っていなかった。カレー鍋は2つあり、目撃された位置から死角にあった鍋にヒ素が混入していたのだ。
また事件で使われたヒ素の種類について、林家にあったものとあくまでも同じ起源のもの(中国産)だと同定されたというのがわかっただけであり、当時和歌山でそのヒ素が広く流通していたことを考えるとこれまた証拠にはなり得ない(健治氏はシロアリ駆除の仕事でヒ素を使用していた)。
更に保険金詐欺事件は夫婦と関係者ぐるみでやっていたことであり、事件との関連はあいまいなものである。
再現映像とインタビューでもって、この疑問の多い構造がまず提示される。
そして監督二村氏は捜査・審理・報道に関わった人物へと直接話しを聞きに行くことにし、ことごとく門前払いを受ける。
ラストは思わぬ方向に監督が一線を超えて映画は幕を閉じる。
そんな感じ!
監督が自ら出るタイプのドキュメンタリーだぞ!
感想
証拠、動機、自白なき死刑判決などあっていいのだろうか?というのがまず感じたことだ。
こわいよ!
そしてその状況が作り上げられた流れを観て、モヤモヤが募りまくった次第である。
異常な過熱っぷりで煽り散らかした報道、機能に不可解な点がある司法、観て消費していた国民、そういった存在が良くない方向に作用して急ぎ決着をつけに行った結果こうなったのか、と感じてしまった。
筆者は、事件当時まだ小学生だったのだが「この女性がなんかとんでもないことをしたのか〜」くらいの認識だった。
そして数十年ぶりに見てもその女性の顔に覚えがあるくらいには強い印象の事件でもある。
この映画にて、眞須美氏を支援する会の人々による街頭演説に絡んできたおっさんがいる。「犯人に決まっている」と言ってくるのだ。
そこまで映画を観てきた筆者としては「なんと盲目的なことだ!」などと思ったのだが、多くの国民がきっと当時からそうだったし今もそうなのだ。
一つの救いは、そのおっさんがその会の人々の主張に理解を示して去っていくことである。
わかってくれるひとが少しでも増えると良い
あと映画において印象的なのはなんといっても健治氏である。
保険金詐欺事件に関する発言はどれをとってもぶっ飛んでいる。
自分の健康を度外視しすぎ!
ここらへんは是非映画で観てみていただきたいところ。
憤ったりぶったまげたり憂いたり、最後は思わぬ形で着地して足がぐねったりするような映画なのだが、とにかく面白いドキュメンタリーであった。
おわりに
ということで『マミー』を観た!という話であった。
日本の報道や司法のあり方を問う作品だったと思う。
多くの人に内容を知ってほしいし、ドキュメンタリーとして純粋に楽しんでほしい作品でもある。
ちなみに監督はdigTVというYouTubeチャンネルにて取材の過程を詳らかにしている。
興味があればそちらからチェックするのもおすすめ。
おもしろいぞ!