【映画館】籠の中の乙女 4Kレストア
ヨルゴス・ランティモス監督の2009年のギリシャ語での長編映画が4Kレストアされ1月末から公開されている。
父の強権により、おかしな教育のもと家から出たことがない娘2人と息子1人の3人兄弟が、あるきっかけから自我を芽生え始めていく、という話。
観るにつれ「あ、そういうことか」という異常な環境が外堀から埋まっていくような感じが面白くもあり、恐ろしくもある。
『ロブスター(2015)』『聖なる鹿殺し(2017)』『憐れみの3章(2024)』で共同脚本をしているエフティミス・フィリップ氏との脚本作品となり、観ていてふと異常な環境に放り込まれてしまう味わい満点である。筆者はこれら3本を先に観て好きになっていたため、これまた素晴らしい体験になった。
画面の強さに病みつきになるものがある監督なのである!
【映画館】オオカミの家
この週公開されたレオン&コシーニャ監督の「ハイパーボリア人」が気になっており、その前に観ておこうということで監督コンビの前作『オオカミの家』を鑑賞してきた。アリ・アスターが製作に関わった『骨』も同時上映となっていた。
映像表現として観たことがない圧巻のストップモーションアニメであった。家をまるまる使った作品になっており、家の中を造形物で表現されたキャラクターが動いたかと思えば、壁や床や家具などに上書きされる絵によって文字通り絶えず登場人物達の動きが表現されていく。描いたそばから塗りつぶされ描き直されていくのだ。アニメーションのシーンにおいてカット割りは一切なく、いわゆる長回しの状態なのである。こんな感じでまず表現技法が特異すぎて、その自由なアニメイト方法に驚き、さらに技術と手間を想起してもはや困惑した。立体物がレオン氏、絵がコシーニャ氏担当となっているそうな。
チリ国内で何年にもわたって作り続けていったというインスタレーション作品という来歴の芸術作品でもある。そういうこともあってか難解な雰囲気もあり、背景的な情報を知っていたほうが確実にわかりやすい。予習無しで観に行った筆者は劇場鑑賞後映像表現に度肝を抜かれつつ、話はイマイチわからずであった。チリに実在したコミューン「コロニア・ディグニダ」から着想を得て作られた作品となっている。
話は、ある集落を脱走した少女マリアが森の一軒家で2匹の子豚と出会い、そこで暮らす中で次第に悪夢めいた状況に追い込まれていく、というもの。で、このアニメーション自体がコロニア・ディグニダの啓蒙ビデオ的な映像が出てきた、というファウンド・フッテージな作りとなっている。
支配や抑圧の恐怖が圧巻の映像表現で描かれている映画であった。

【映画館】アンデッド 愛する者の不在
「ぼくのエリ 200歳の少女」の原作者ヨン・アイビデ・リンドクビスト氏が原作・共同脚本を務める北欧ホラー。監督はテア・ビスタンダル氏。
オスロにて謎の大規模停電を契機に死者が動き出し、愛しきものを失ったばかりの3つの家族がその事象と向き合うことになる。息子を失った母とその父、母を事故で失った夫と二人のこども、同性のパートナーを失った老女がただそこにいてくれる存在と対峙するのだが、帰ってきた彼らは瞬きや呼吸こそすれ、言葉は発せず、体は石のように冷たい。一度は死を受け入れかけていた彼らがふたたび愛する人を取り戻したかに思えたが、…といった話。
ゾンビっぽいものがでてくるけどしみじみと観れる一味違った作品である。外見がその人だとしても、魂の不在はどこまでも隔たりとなるのであった。
【映画館】邪悪なるもの
アルゼンチンのデミアン・ルグナ監督によるホラー映画。
教会が崩壊し、体を悪魔に乗っ取られ腐ってゆく『悪魔憑き』が伝染病のように流行っている世界にて、地の果てのような田舎で悪魔憑きが発生してしまう。ある日農場を切り盛りする中年兄弟が変死体を発見しつつ、近所の貧困農家に感染者がいることを知る。伝承として伝わる悪魔と対峙するうえでの7つのルールに気をつけつつ、兄は別れた元嫁と息子たちをつれて村から逃げようとするのだが、動物を含め感染者がつぎつぎに多発してどうしようもない感じになっていき…という話。
結構キツめな描写を容赦なくわざわざじっくり見せてくる部分に衝撃をうける映画である。なかなか見応えアリ。
【Blu-ray】柔らかい殻
昨年見て好きになったリバイバルがソフト化されていたので購入した(使っているサブスクで見当たらず)。
印象的なシーンの数々を改めて観れるのはとても良いのである。

【Prime Video】JUNK HEAD
堀貴秀監督が7年の歳月をかけて作ったストップモーションアニメ。直近で『ストップモーション』、『オオカミの家』といった作品を観ていたため興味が湧き鑑賞してみた。圧巻である。
ディストピア感のある設定が作り込まれている模様。
人体を無機物に転化する技術により不老不死となった人類は謎のウイルスで存続の危機に陥っていた。そして失った生殖能力の可能性を地下に見出す。地下は、はるか昔に人類が創造し、そして対立した人工生命体「マリガン」の世界となっている。主人公パートンは地下調査員に応募し、生殖能力の可能性があるマリガン個体の探索を開始する、といった話。作り込まれた世界観に、キモカワでどこかコミカルなキャラクターが動きまくる。
ぎりぎりPrime Videoの観放題から外れる前に鑑賞できた次第である。何やら3部作構想であり2025年に続編が公開されるとのことである。
【映画館】セプテンバー5
ミュンヘンオリンピックにて、世界で初めてテロの生中継をしてしまったテレビクルー達の緊迫の1日を描いた作品。かなり緊張感ある90分を体感できる。レトロな放送機材や電話をがちゃがちゃ使い倒す感じだったり、映像の質感や音楽なんかも良かった。演技もすばらしい。
とはいえ終始テレビ局内の視点からは出ないこともあり、盛り上がりもそれなりといった感触もあったり。