この記事は筆者がAmazonのPrimeVideoで視聴した作品をユルめに紹介するシリーズ記事である。
筆者
最近Prime Videoをよく使うようになった筆者である。
今回は2007年の三木聡監督作品「図鑑に載ってない虫」である!
珍妙な面々が珍妙な臨死体験を求めて珍妙な決死行を繰り広げる真夏のロードムービーである。
【Prime Video】図鑑に載ってない虫
図鑑に載ってない虫はこんな映画
伊勢谷友介扮する、日の当たらないルポライター「俺」は雑誌「黒い本」の編集長に命じられ「死にモドキ」なる臨死体験できる「なにか」を探すことになる。
締め切りは1ヶ月。
アル中のオルゴール職人エンドー(松尾スズキ)を相棒にし、ついでにリストカッターの元SM嬢サヨコ(菊地凛子)を加え「死にモドキ」の手がかりを探して動き回る。
ヤクザやその裏にいる黒幕、そして警察も「死にモドキ」の情報を求めて動き出すなか、「俺」達の珍道中の行く末は如何に?
みたいな話である。
相変わらずの小ネタに次ぐ小ネタは心地よく、しかしそのゆるすぎる小ネタ達に埋もれて見え隠れする観念的なアプローチは三木監督なりのある種の死生観を提示しているようでもある。
各キャラの衣装や訪れる場所の美術が大変凝っており、そこも大いに見どころとなっている。
あとは夏を感じられるのが大変魅力。
図鑑に載ってない虫の各キャラについて
変なキャラしか出てこないわけだが、数が多いのでわりと主要なキャラを紹介していきたい。
俺(伊勢谷友介)
主演「俺」は伊勢谷友介氏である。
三木監督的には、「伊勢谷君の困った顔が面白い二枚目」と言った感じが結構ポイントだったそうである。そんな主演の伊勢谷氏は、確かに整った顔を微妙なトーンで歪めていい味を出しているので要チェックである。
衣装も個性的で、帽子とベスト、下げたサスペンダーが味がある。
タンクトップから伸びた腕が美しく、衣装を担当した勝俣氏としても「肌は衣装の一部」ということで大胆にタンクトップを多用している。
また「俺」の部屋もかなり独特でカッコいいので要チェックと言える。
エンドー(松尾スズキ)
ヒッピー的な風貌の変なヤツ。
イン・ザ・プールで主演として伊良部を演じた松尾スズキ氏だが今作では「俺」の相棒・エンドーである。
うずたかく積もるタバコの山、人魚づくり、燃えるゲロと登場シーンからぶっ飛んでいる。
ちなみにこのキャラは『帰ってきた時効警察(2007)』の最終話でもちらっと出てくる。
サヨコ(菊地凛子)
務めていた「荒野のSMクラブ」が閉鎖してしまったため、「俺」達と一緒に行動することになったリストカッター。
ちなみに菊地凛子がかの『バベル(2006)』で有名になる前後に撮影されたのが本作である。
アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされたかと思えば、こちらではリストカット痕でわさびをおろしているのだから面白いものである。
初期の構想ではもっと暗くて不思議キャラ寄りだったサヨコだったが、菊地氏が演じることでより面白いサヨコ像にできたとのことである。
その後三木組では『時効警察 復活スペシャル(2019)』に九品仏さやか役で出演している。
目玉のおっちゃん
鯉のぼりの布をシャツにしちゃった服を着ているヤクザ。
いい歳していつまで自分はヤクザやって怖い顔してんだろうか…と悩んでいる48歳である。
そんな目玉のおっちゃんは三木作品では欠かせない存在になっている岩松了氏が演じている。
三木監督としてもも岩松氏には「バンドで言うベース」的な役割を担ってもらっているそうである。
ちなみに今回腕に入れ墨である文を入れているのだが、劇中ほぼ視認できない。
チョロリ
ふせえり氏が演じるチンピラで目玉のおっちゃんの舎弟。
ピンクチラシ貼りでモナリザを再現する芸術性を持っていたりする。
異常に甘いもの好き。
声のトーンが妙に高い。
ふせ氏がリハで急にやりだしたのが「あの」声だそうである。
「芝居としてありなのか?」と物議をかもしたそうだが、結果採用されたとのこと。
衝撃の角刈り(地毛)でもってやりきった面白キャラであった。
黒幕の部下
嶋田久作氏が今回演じるのは「黒幕」の部下である。
今回恐らくマフィア的な存在のはずだが、その実態はよくわからない。
『ダメジン(2006)』、『インスタント沼(2009)』、『亀は意外と速く泳ぐ(2005)』の前3作では警察だったが今回は悪役ということで、結局かなりコワいのであった。
カメラマン真島
物語序盤、「死にモドキ」についてなにやらカギを握るキャラが真島である。
戦場カメラマンのような雰囲気の衣装がとてもマッチしている。
恋人が急に爆発する衝撃のシーンが忘れがたい。
演じる松重氏と言えばいまや大変な人気俳優だが、三木作品では初期作の『亀は意外と速く泳ぐ(2005)』でのラーメンサルタナの店主をはじめとして多数出演している。
映画では『インスタント沼(2009)』のリサイクル業者、テレビドラマでも『熱海の捜査官(2010)』の拾坂署長、『変身インタビュアーの憂鬱(2013)』のラスボス・黒曲、『時効警察はじめました(2019)』最終話での只野教授訳と重要な存在である。
モツ煮込みやのオヤジ
「俺」達がよく飲んでいる店。
変なメニューが多いモツ煮込みやである。
閉店間際には客に対してあてつけのように蛍の光を流す。
『時効警察(2006)』『帰ってきた時効警察(2007)』『時効警察 復活スペシャル(2019)』でそれぞれ林田巡査、その兄、その親戚の針巡査役で出ていることでおなじみ。
『ダメジン(2006)』の猫じじい、『転々(2007)』の疊オヤジ、『インスタント沼(2009)』の部長役など多数出演。
三木作品的にもこれまた重要な存在である。
半分男
村松利史氏演じる見世物小屋の芸人。旧日本軍の軍服と軍帽、そして髭がいい感じである。
なぜか下半身がない。
物語上、意外と重要そうなヒントを提示する存在である。
『ダメジン(2006)』のインバさん(これまた下半身みえない)、『時効警察(2006)』の味見電気店の店主やミノムシ男(さらに下半身が見えない)、『亀は意外と速く泳ぐ(2005)』の豆腐屋など、絶妙な存在感を発揮して三木作品を彩っている。
公園の全裸男
エンドーの顔に蟻がたかっていた公園で仲良くなった全裸男である。
臨死体験済みらしい。
三木作品おなじみの股間の黒丸もよりアクロバティック(?)になっている。
演じる森下氏は三木作品でもおなじみの存在である。『亀は意外と速く泳ぐ(2005)』の最中屋さんを皮切りにかなり微妙な存在感のある役を演じている。
『変身インタビュアーの憂鬱(2013)』の天狗野郎、『時効警察 復活スペシャル(2019)』のずぶぬれ男とわりとヤバ目な役が多くてサイコーである。
注目の小ネタ
相変わらず小ネタ三昧なので、とてもすべてはカバーできない。
ということで特に印象深いものを5つだけピックアップしたい。
謎肉ステーキ
「俺」が取調室でかつ丼の代わり(?)にすすめられた謎の逸品。
世が謎肉に着目するよりも早くこんな形で小ネタに取り入れていた三木監督はさすがとしか言いようがない。
そのシーンで併せて出てくる天井に張り付いたティーバックもかなりヤバイので要チェックである。
そーぶくん?
これまた取調室だが、中村刑事(田中哲司)のマグカップには時効警察でおなじみのキャラクター・そーぶくんめいたキャラが描いてあるのである。
本物のそーぶくんに対して、本家(?)のピーポくん要素がこれまた増している気がしてならないし、なんか太っているし、なんか変なのである。
ゼリー藤尾
「ぼよん」とした微妙な質感のゼリー藤尾である。
さすがにゼリーでは作れないので大体の原材料としてシリコンを検討したが費用が高くなりすぎるため、混ぜ物を加える実験を繰り返した末、制作費を大幅に抑えて制作が敢行されたという。
ちなみにこの映画は2006年夏に一時中断しており、追加で2007年3月に撮影がされている。
スケジュール調整が非常に困難になってしまったため、わずか3日での撮影がよぎなくされたそうだが、なんとこの時間のかかりそうなゼリー藤尾シーンは追加撮影の枠に入ってしまっていたという。
もし取るなら明らかに半日は要するシーンだったところを、三木監督の想いを実現すべく、撮影を敢行。
無事日の目を見ることとなったそうである。
ここらへん事情はDVDBOXのブックレットなどに詳細が記されているので、三木監督ファンは是非チェックしてみていただきたい。
シオカラ・ケイジ
サヨコがひっくり返したボウルいっぱいのシオカラが床でニコラス・ケイジっぽくなっているのである。
サロンパス煙草・アロンアルファコンタクト
エンドーが楽しんでいる謎の行為である。
おわりに
ということでPrime Videoで三木聡監督作品「図鑑に載ってない虫」を観た!という話であった。
気になる小ネタとカッコよい美術、個性的な衣装などビジュアルの力も大変強い映画であり、解放感溢れる真夏のロードムービーである。